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東京地方裁判所 昭和29年(ヨ)11号 決定 1954年1月06日

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別紙目録のとおり

右当事者間の昭和二十九年(ヨ)第一一号株式仮処分申請事件につき当裁判所は左のとおり決定する。

主文

本件申請はこれを却下する。

理由

債権者は「債務者は別紙目録記載の株券の裏書並びに株式の譲渡その他一切の処分行為をしてはならない。第三債務者株式会社三越は別紙目録記載(一)の株式、第三債務者東京海上火災保険株式会社は別紙目録記載の(二)の株式、第三債務者呉羽紡績株式会社は別紙目録記載の(三)の株式に対し債務者の申請による名義変更手続をしてはならない」との仮処分命令を求め、申請の原因として「債権者は債務者に対し昭和二十八年九、十月にわたり別紙目録記載(一)(二)(三)の株券を貸し渡したが、同種業者の休業の影響を受けて業績不振となつたため、会社責任者は行方を晦ましており、貸与した右株券を処分されてはこれが返還を受け得なくなる恐れがあるので、本申請に及んだものである。」と述べた。

債権者が債務者に対し別紙目録(一)(二)(三)の株券を貸与し、従つてその返還を求める権利を有していること、債務者は業績不振となり債権者の右株券を処分される恐れがあることは一応疎明されたものと認める。

しかしながら本件申請は次の理由により失当である。(一)債権者の求める仮処分命令は債務者に対し単純な不作為命令として株式の処分禁止を求めるものであると同時に、債権の処分禁止仮処分に準じ執行方法として第三債務者に対する名義書換禁止の命令をも求めている。しかし、株式は株券なる有価証券に化体され、株券は有体動産としての執行方法に服することは民事訴訟法第五八一条ないし第五八三条に規定されているところである。従つて株式には第三債務者となる者もないのであり、債権に準ずる処分禁止仮処分の命令を発することは民事訴訟法上許されない。(株式の性質について如何なる学説をとるも結論は異ならない。)債権者は「債務者の占有する別紙目録記載の株券を執行吏をして保管せしめる」という趣旨の仮処分命令は欲しないと述べた。債権者の明かに拒否する以上当裁判所は民事訴訟法第七五一条第一項に従つて右趣旨の処分を定めることもできないのである。(二)債権者は債務者に対しては右に述べた範囲で株式の処分禁止を求める権利を有するが、株式発行会社に対しては実体上よりしても名義書換禁止を求める権利を有しない。株式発行会社は商法第二〇五条の形式的要件の具備する限り記名株式の譲受人よりなされた株券並びに株主名簿の名義書換をなす義務がある。もし債権者の求めるような仮処分命令が株式発行会社に対し発せられて会社がこれを遵守すれば、善意で株式を取得した第三者は名義の書換を得て株主権を行使することを妨げられる結果となる。債権者よりも善意取得者が保護される結果となることも株式の流通保護のため止むを得ないところである。この点よりしても株券の占有を奪う方法以外に株式の処分禁止仮処分の執行方法は考えることができない。

よつて主文のとおり決定する。

昭和二十九年一月六日

東京地方裁判所民事第九部

裁判官 宮脇幸彦

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